神戸地方裁判所姫路支部 昭和52年(ワ)128号 判決 1978年1月23日
原告
柳瀬多基子
原告(反訴被告)
大塚ひさ子
被告(反訴原告)
柴田司郎
主文
被告(反訴原告)は原告柳瀬多基子に対し金四〇万七二七〇円及びうち金三六万七二七〇円に対する昭和四八年二月五日から、うち金四万円に対する昭和五〇年四月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
被告(反訴原告)は原告大塚ひさ子(反訴被告)に対し金二八万二八〇一円及びうち金二五万二八〇一円に対する昭和四八年二月五日から、うち金三万円に対する昭和五〇年四月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
原告らのその余の各請求を棄却する。
被告(反訴原告)の請求を棄却する。
訴訟費用は本訴反訴を通じてこれを三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
この判決は原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一本訴
一 原告らは「被告(反訴原告、以下単に被告という。)は原告柳瀬多基子(以下原告柳瀬という。)に対し金六九万三八六〇円及びうち金六四万三八六〇円に対する昭和四八年二月五日から、うち金五万円に対する昭和五〇年四月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告大塚ひさ子(反訴被告、以下単に原告大塚という。)に対し金三二万〇九〇〇円及びうち金二九万〇九〇〇円に対する昭和四八年二月五日から、うち金三万円に対する昭和五〇年四月一二日から支払ずみまで前同割合による金員を、それぞれ支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被告は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。
二 原告らは請求の原因として次のとおり述べた。
(一) 事故の発生
原告らは次の交通事故により傷害を被つた。
(1) 日時 昭和四八年二月四日午後二時三〇分ころ
(2) 場所 京都市北区平野八丁目柳町四〇番地先交差点
(3) 被告車 (加害車)
普通乗用自動車(京五ゆ三三号)
右運転者 被告
(4) 原告車 (被害車)
普通乗用自動車(姫路五五も六二二一号)
右運転者 大塚義信(以下単に義信という。)
右同乗者 原告両名
(5) 態様 西進する原告車と北進する被告車とが前記交差点内で衝突した。
(二) 責任原因
(1) 自賠法三条
被告は被告車を保有し、自己のため運行の用に供していた。
(2) 民法七〇九条
被告は前方注視義務及び交差点進入に際しての徐行義務を怠つた過失により、本件事故を発生させた。
(三) 損害
(1) 傷害の内容と治療経過
(原告柳瀬)
頭部、胸部、腹部、左肘関節部打撲、頸部捻挫、左肋骨骨折により、昭和四八年二月四日から同年三月一七日まで四二日間京都北野病院、京都南逓信病院、入江病院に入院し、同年三月一八日から同年九月二五日まで一六〇日間(うち実日数一八日)入江病院に通院し治療を受けた。
(原告大塚)
頭部外傷Ⅱ型により、昭和四八年二月六日から同年二月二四日まで一九日間大阪逓信病院に入院し治療を受けた。
(2) 損害額
(原告柳瀬)
(イ) 治療費 金三九万四三七〇円
前記病院において右金額を要した。
(ロ) 付添看護費 金一万五〇〇〇円
入院中一〇日間付添看護を必要とし、一日金一五〇〇円の割合で右金額を要した。
(ハ) 入院雑費 金一万二六〇〇円
前記入院四二日間の諸雑費として、一日金三〇〇円の割合で右金額を要した。
(ニ) 休業損害 金二一万六三〇〇円
原告柳瀬は本件事故当時四一歳であつたが、事故による受傷のため昭和四八年二月四日から同年四月三〇日まで八六日間休業を余儀なくされ、その間の収入を失つたものであるところ、右収入額は昭和四八年賃金センサス一巻一表女子労働者該当年齢の月間給与額金六万一九〇〇円、年間特別給与額金一七万五六〇〇円を基礎とした年収金九一万八四〇〇円の八六日分である金二一万六三〇〇円(一〇〇円未満切捨)とするのが相当である。
(ホ) 慰藉料 金四〇万円
前記同原告の傷害の内容と治療経過からすると、右金額が相当である。
(ヘ) 弁護士費用 金五万円
同原告は本訴の提起追行を弁護士に委任し、着手金として金五万円を支払つた。
(ト) 損害の填補 金三九万四三七〇円
被告は同原告の治療費として右金額を支払つた。
以上(イ)ないし(ヘ)の合計額から填補額を控除した請求額は金六九万三八六〇円である。
(原告大塚)
(イ) 治療費 金六万〇三一二円
前記病院における治療に右金額を要した。
(ロ) 入院雑費 金五七〇〇円
前記入院一九日間の諸雑費として、一日金三〇〇円の割合で右金額を要した。
(ハ) 休業損害 金七万四九〇〇円
原告大塚は本件事故当時六〇歳であつたが、事故による受傷のため昭和四八年二月四日から同年三月一〇日まで三五日間休業を余儀なくされ、その間の収入を失つたものであるところ、右収入額は前同賃金センサスの該当年齢欄の給与額により同様算出した年収金七八万二一〇〇円の三五日分である金七万四九〇〇円(一〇〇円未満切捨)とするのが相当である。
(ニ) 慰藉料 金一五万円
前記同原告の傷害の内容と治療経過からすると、右金額が相当である。
(ホ) 弁護士費用 金三万円
同原告は本訴の提起追行を弁護士に委任し、着手金として右金額を支払つた。
(四) よつて被告に対し、原告柳瀬は金八〇万八三〇〇円、原告大塚は金三二万〇九〇〇円、及びうち各弁護士費用を除く金員に対する事故の日の翌日である昭和四八年二月五日から、各弁護士費用額に対する訴状送達の日の翌日である昭和五〇年四月一二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
三 被告は請求原因に対する答弁及び主張として次のとおり述べた。
(一) 請求原因(一)の事実は認める。同(二)の事実中、(1)を認め、(2)の事実は争う。同(三)の事実中、(1)の事実は知らない。(2)の事実中、原告柳瀬の治療費額及び損害の填補の事実を認め、その余は争う。
(二) 本件事故の発生につき原告車運転者の義信にも過失があつた。すなわち、義信は東西道路を西進し、交差道路の方が幅員の広い、交通整理の行われていない本件交差点に進入するにあたり、左方から北進する被告車を左前方二九・三五メートルの地点に認めたのであるから、一時停止し被告車の通過を待つて進行すべき注意義務があるのに、原告車が先に通過できるものと軽信しそのまま交差点に進入した過失があつた。義信は原告大塚の長男であり、原告柳瀬は原告大塚の妹であるから、右親族関係からすると、義信の過失は原告側の過失として原告らの損害につき斟酌すべきである。
(三) 被告は原告柳瀬の治療費金三九万四三七〇円を支払つたほか、物的損害の填補として、本件事故により原告車が事故現場付近の浜水勝浩の家屋に衝突しこれを破損したことによる修理費として、被告は右浜水に対し金三万三〇〇〇円を支払い、また、義信に対し、原告車が大破したため同車と同程度の金三四万円相当の自動車を交付し、被告の損害としては、事故当時の価格金四〇万円の被告車が全損し廃車となつた。右物損は本訴請求外の損害に関するものであるが、前記過失相殺はこれら物的損害額を含めた本件事故による損害総額につきなされるべきであり、そのうえで、被告の負担額から右弁済額を控除すべきである。
第二反訴
一 被告は「原告大塚は被告に対し金八八万〇六一五円及びこれに対する昭和五二年三月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は原告大塚の負担とする。」との判決を求め、原告大塚は「被告の請求を棄却する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。
二 被告は請求の原因として次のとおり述べた。
(一) 事故の発生
本訴請求原因(一)記載の事故が発生した。
(二) 責任原因
(1) 原告大塚は原告車を保有し、自己のための運行の用に供していた。
(2) 原告大塚は、同人の子義信を指揮監督して原告車を運転させ、義信は同原告の事業の執行として同車を運転中、前記本訴請求原因に対する被告の主張(三の(三))のとおりの過失により本件事故を発生させた。
(三) 損害
被告は本件事故により次の損害を被つた。
(1) 物損関係
事故現場民家破損修理費用として金三万三〇〇〇円、双方車両破損により買替のため要した費用として、原告車につき金四一万円、被告車につき金三七万円、以上合計金八一万三〇〇〇円であるところ、原告大塚が同乗した原告車運転者の義信は同原告の子であり、同人には前記の過失があつて、これに対する被告の過失割合は五〇パーセントと考えられるから、過失相殺した金額金四〇万六五〇〇円のうち、義信の填補額金七万円を控除した金三三万六五〇〇円の損害を被つたこととなる。
(2) 人損関係
本訴における原告柳瀬の請求額金六九万三八六〇円は、本訴において被告が敗訴した場合の負担額となり、右のほか、原告柳瀬の治療費として被告が既に支払つた金三九万四三七〇円との合計金一〇八万八二三〇円の損害につき、前同割合で過失相殺した額は金五四万四一一五円となる。
(四) よつて、被告は原告大塚に対し、金八八万〇六一五円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である昭和五二年三月三一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
三 原告大塚は反訴請求原因に対する答弁及び主張として次のとおり述べた。
(一) 請求原因(一)の事実は認める。同(二)の各事実は否認する。原告車は義信が常時通勤及びその妻子ら家族のために使用しているものであつて、実質上同人の所有に属し、車庫証明の便宜上原告大塚の名義で購入したものにすぎない。同(三)は争う。
(二) 仮に被告が損害賠償請求権を取得したとしても、被告が反訴を提起したのは昭和五二年三月二四日であつて、当時既に本件事故発生以来三年を経過し、右請求権は時効により消滅したものであるから、原告大塚は右時効を援用する。
四 被告は原告大塚の主張に対する反論として次のとおり述べた。
時効消滅の主張は争う。被告が加害者たる原告車の所有者が原告大塚であることを知つたのは昭和五〇年八月二二日であるから、時効期間は同日から起算すべきである。
第三〔証拠関係略〕
理由
一 本訴について
(一) 事故の発生
請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。
(二) 責任原因
請求原因(二)(1)の事実は当事者間に争いがない。
(三) 損害
(1) 原告らの傷害の内容と治療経過
(原告柳瀬)
成立に争いがない甲第一ないし第五号証の各一及び原告柳瀬本人尋問の結果によれば、同原告は本件事故により頭部、胸部、腰部、左肘関節部打撲、頸部捻挫、左肋骨骨折等の傷害を受け、昭和四八年二月四日から同月六日まで三日間京都北野病院に、引続き同日から同月二四日まで一九日間京都南逓信病院に、同月二七日入江病院に転医通院の後、翌二八日から同年三月一七日まで一八日間同病院に、それぞれ入院し、翌三月一八日から同年九月二五日までの間に一八日入江病院に通院し治療を受けたことが認められる。
(原告大塚)
成立に争いがない甲第六号証の一によれば、原告大塚は本件事故により頭部外傷Ⅱ型の傷害を受け、昭和四八年二月六日から同年二月二四日まで一九日間大阪逓信病院に入院し治療を受けたことが認められる。
(2) 損害額
(原告柳瀬)
(イ) 治療費 金三九万四三七〇円
前記各病院における治療費の合計として右金額を要したことは当事者間に争いがない。
(ロ) 付添看護費 金一万二〇〇〇円
前掲甲第一、二号証の各一及び原告柳瀬本人尋問の結果並びに経験則によれば、同原告は入院中一〇日間付添看護を必要とし、少くとも一日金一二〇〇円の割合による右期間の合計金一万二〇〇〇円の費用を要したことが認められる。
(ハ) 入院雑費 金一万二〇〇〇円
前記入院合計四〇日間の諸雑費として、経験則により一日金三〇〇円の割合による右金額を相当と認める。
(ニ) 休業損害 金一八万三六八〇円
成立に争いがない乙第八号証、前掲甲第一号証の一及び原告柳瀬本人尋問の結果によれば、同原告は事故当時四一歳で、喫茶店を経営し収入を得ていたが、本件事故による受傷のため業務にたずさわることができなかつたことが認められるところ、前認定の傷害の内容と入通院の経過及び右職業の内容等からすると、休業を余儀なくされた期間は昭和四八年二月四日から退院後一か月を経過した同年四月一七日までと認めるのが相当であり、収入額については昭和四八年賃金センサス一巻一表企業規模計により女子労働者四一歳の月間給与額金六万一九〇〇円、年間特別給与額金一七万五六〇〇円を基礎とした年収金九一万八四〇〇円に則り、その七三日分である金一八万三六八〇円の収入を失つたものと認めるのが相当である。
(ホ) 慰藉料 金三五万円
前認定の本件事故の態様、原告柳瀬の傷害の内容と治療経過、その他本件にあらわれた諸般の事情からすると、同原告に対する慰藉料は右金額が相当である。
(原告大塚)
(イ) 治療費 金六万〇三一二円
成立に争いのない甲第六号証の二によれば、前記病院における治療費として右金額を要したことが認められる。
(ロ) 入院雑費 金五七〇〇円
前記入院一九日間の諸雑費として、経験則により一日金三〇〇円の割合による右金額を相当と認める。
(ハ) 休業損害 金七万四九九五円
成立に争いがない乙第七号証、前掲甲第六号証の一及び証人大塚義信の証言(第二回)によれば、原告大塚は事故当時六〇歳で、洋裁学院を経営し収入を得ていたが、本件事故による受傷のため業務にたずさわることができなかつたことが認められるところ、前認定の傷害の内容と入院治療の経過、及び職業の内容等からすると、右休業を余儀なくされた期間は昭和四八年二月四日から同年三月一〇日ころまでの三五日間と認めるのが相当であり、収入額については昭和四八年賃金センサス一巻一表企業規模計により女子労働者六〇歳の月間給与額金五万四二〇〇円、年間特別給与額金一三万一七〇〇円を基礎とした年収金七八万二一〇〇円に則り、その三五日分である金七万四九九五円(一円未満切捨)の収入を失つたものと認めるのが相当である。
(ニ) 慰藉料 金一〇万円
前認定の本件事故の態様、原告大塚の傷害の内容と治療経過、その他本件にあらわれた諸般の事情からすると、同原告に対する慰藉料は右金額が相当である。
以上の認定を覆えすに足る証拠はない。
(3) 過失相殺
成立に争いがない乙第四ないし第一一号証、同第一二号証の一、二、証人大塚義信の証言(第一回)、原告柳瀬及び被告各本人尋問の結果によれば、義信は原告車を運転し幅員四・八メートルの東西道路を西進し、幅員五・二メートルの南北道路と交わる交通整理の行われていない本件交差点にさしかかつた際、一旦停止したうえ、交差道路の見通しが悪いので安全確認のため再び徐行前進して左方を見たところ、北進してくる被告車を約三〇メートル先に認めたが、自車が先に交差点を通過できると考え、時速一〇キロメートル以内の速度でそのまま進行したところ、原告車の左側面前部ドア付近に被告車の前部が衝突したこと、一方、被告は南北道路を時速四〇キロメートル位で北進し、右方の見通しの悪い本件交差点に近付いたが、時速三五キロメートル位に減速したのみでそのまま走行中、右方より交差点に入ろうとする原告車を前方十数メートルの地点に認め、急制動の措置をとつたが間に合わず衝突したもので、路面の衝突地点まで、左六・六メートル、右一・九メートルの被告車のスリツプ痕が存在し、原告車は衝撃により衝突地点の北西数メートル先の民家に当つて停止したこと等の事実が認められ、義信の証言中右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
右事実によれば、義信は一旦停止後発進し被告車を認めた際、同車の動静に注意し自車が安全に交差点を通過できることを確認したうえで適切な速度で進行すべき注意義務を怠つた過失があり、他方、被告は見通しの悪い交差点における徐行義務を怠つた過失により、原告車発見後の衝突回避措置がとれなかつたものと考えられ、両者の過失割合は、義信二割に対し被告八割と認めるのが相当である。
交差点における左方優先は、原告車について言えば、自車が先に安全に通過できる余裕あるときにまで適用されるものではないから、本件の場合、優先権の観点から義信の運転行為を非難することは適切でなく、被告車の徐行の有無はともかく、その現実の動静を認識した際安全に通過できると誤信した点において前記のとおり同人の過失を問えば足るものである。なお、本件交差点における前認定の各道路幅員からすれば、南北道路が東西道路に比し明らかに広路であると言うことはできないから、この点における被告車の優先を認めることもできない。
前掲乙第七ないし第九号証、義信の証言(第二回)及び原告柳瀬本人尋問の結果によれば、原告大塚は義信の母であり、原告柳瀬は原告大塚の妹であつて、本件事故当時、原告柳瀬は同人の子の大学進学に関し学校等の下見のため、原告大塚とともに義信の運転により原告車に同乗していたこと、原告車は車庫証明の都合上登録上の使用者名義を原告大塚としていたことが認められ、これに反する証拠はなく、右原告らの親族関係、同乗の目的等からすれば、前記義信の過失は原告ら被害者側の過失として、過失相殺により原告らの損害につきそれぞれその二割を減ずるのが相当と考えられる。
従つて、原告柳瀬の前記(2)の損害額合計金九五万二〇五〇円からその二割を控除した残額は金七六万一六四〇円、同様原告大塚の同損害額合計金三一万六〇〇二円につきその残額は金二五万二八〇一円(一円未満切捨)となる。
(4) 損害の填補
被告が原告柳瀬の治療費として金三九万四三七〇円を支払つたことは当事者間に争いがなく、同原告の右(3)の損害額からこれを控除した残額は金三六万七二七〇円となる。
(5) 弁護士費用
原告柳瀬本人尋問の結果により成立を認める甲第七号証の一、弁論の全趣旨により成立を認める同号証の二及び右尋問結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告らは本訴の提起追行を弁護士に委任することを余議なくされ、着手金として昭和五〇年四月五日柳瀬は金五万円、大塚は、金三万円を支払つたことが認められるところ、本件事案の内容、認容額等にてらし、被告に対し請求しうる弁護士費用額は、原告柳瀬につき金四万円、原告大塚につき金三万円が相当と認められる。
二 反訴について
(一) 反訴請求にかかる物損関係につき、原告大塚の責任の存否を吟味する。
本件事故に際し義信に過失があつたことは前認定のとおりであり、事故は右過失にも基因したものと考えられる。
原告車の登録上の使用者名義が義信の母である原告大塚であつたこと及び事故当時の使用目的については先に認定したとおりであり、右事実に併せ、前掲乙第九号証、義信の証言(第一、二回)によれば、原告車は義信が購入し、常時同人の通勤及び妻子ら家族の所用に使用していたこと、事故当時原告大塚は肩書地において独り居住し、義信は妻子と枚方市に住み同原告とは別居していたこと、義信は枚方市の住所では車庫証明が得られないため、前記のとおり登録上の使用者名義を原告大塚としたが、同原告方に車庫等の設備もなく、原告車を常置したこともないことが認められ、これに反する証拠はない。
以上の事実からすれば、本件事故当時、義信は自己のものである原告車を、たまたま叔母である原告柳瀬の所用のため、同人と原告大塚を同乗させていたものにすぎず、原告大塚と義信との間に格別指揮監督の関係はないものというべきであり、他に民法七一五条一項の使用者と同視すべき支配関係を認めるべき証拠のない本件においては、本件事故につき原告大塚に右条項に基づく責任は存在しないものと言わねばならない。
(二) 反訴請求にかかる人損関係についてみるに、被告主張の人的損害は、本件事故による原告柳瀬の総損害につき原告大塚側の義信の過失に基因する割合部分を同原告(反訴被告)に対し請求するものであるところ、原告柳瀬の右総損害についての被告の負担割合及びその債務額は本訴において認定したとおりであつて、被告が義信の過失割合部分を負担することによつて被る損害は存在しないことになる。
(三) 従つて、その余の点につき判断するまでもなく、反訴請求は理由がない。
三 結論
原告柳瀬は金四〇万七二七〇円、及びうち金三六万七二七〇円に対する本件事故の日の後である昭和四八年二月五日から、うち金四万円に対する訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和五〇年四月一二日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において、原告大塚は金二八万二八〇一円、及びうち金二五万二八〇一円に対する前同様昭和四八年二月五日から、うち金三万円に対する前同様昭和五〇年四月一二日から各支払ずみまで前同損害金の支払を求める限度において、それぞれ理由があるので認容し、その余の請求は理由がないのでいずれも棄却し、被告の反訴請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 松本克己)